P2Pに著作権侵害の責任なし――ファイル交換企業、再度の勝利(ITMedia)

米サンフランシスコの第9巡回区控訴裁がP2Pファイル交換サービス企業がユーザーの著作権侵害の責任を負うことはないという判決を出した模様です。

これを見ると、少なくともアメリカに関してはインターネット上の技術利用による(共同)不法行為の幇助は認められないという流れになりそうですね。理由は「技術の発展を妨げるような行為は裁判所は慎重な判断をすべき」だから。


この論旨は厳密に言うと、侵害訴訟に対するものとしてはややずれているような感もあります。
侵害訴訟では、ふつう「故意又は過失」、「権利侵害(ないし違法性)」、「損害」、「因果関係」が問題になりますが、この訴訟ではそれらに該当する、該当しないという主張ではなく、「技術の発展は見守るべき」という理由に基づいて請求を棄却しているからです。日本流で言えば、書かれざる違法性阻却事由による請求棄却といったところでしょうか。


これを支えているのは、「コモン・センス(常識)」に基づくアメリカの判例法主義です。今回引用されている連邦最高裁のベータ・マックス訴訟も、同じく「コモン・センス」により判断を下した例です。彼らは「法律上の文言をそのまま解釈すれば〜〜といえるかもしれない。でもそれは『常識的におかしい』」という判決理由を用いることができます。

この『常識的にいってどうか』という基準は、まだ発展途上段階にある法的利益の適切な調整手段としてとても優れた効果を発揮します。日本のようなまず「権利」の問題ありき、「被害者救済」至上主義の元では、一般的に「権利」として認知されてしまうと、かかる判断はせいぜい「権利濫用」でしか行いえません。これらの概念は「権利者の権利主張は基本的に正しく、救済されるべきである」というバイアスを含むため、どうしても判断が当事者間に限定され、『常識』に基づく判断が働きにくく、実際には相手方が反社会体制勢力(闇金暴力団、詐欺商法)だったり、詐害意図を有していたりすることが立証されないと用いられないのが基本です。

日本ではニュートラルな立場から利益調整を図るための仕組みが「当事者間の利益衡量」しかなく、「権利」自体は承認されているが、その保護範囲や程度について意見が2分しているような状況の元では―「利益衡量」は当事者の利益を算定し、適切に比較できるということを前提にしているので―適切な判断が下しにくいという弱点をもっています。その意味で、この判決は日本では出しようのない判決と言えるでしょう。


日本の不法行為法も、早く「被害者救済」至上主義の夢から覚めてほしいものです。
こうしたバイアスがある限り、『意見が異なる新しい問題に対して適切なルール設定を行う』という、不法行為法が本来担当するべき役割を担うことは困難なままでしょう。