P2Pソフトウェアの開発企業に、ユーザーの著作権侵害行為に対する法的責任がないとされた事例

前回挙げた判決について、やや詳しく紹介してみることにします。
全訳したのですが、長いので要約しました(それでも長いですが・・)。


MGM Studios, Inc. v. Grokster Ltd., 2004 U.S. App. LEXIS 17471

結論:地裁の判決に同意(AFFIRMED

トーマス判事による法廷意見(OPINION)



I Background


議論の前提として、P2Pソフトウェアについての基礎知識について述べられている部分です。GrocksterやStreamCastのP2Pソフトウェアのタイプが、Napsterのような中央サーバを介さないという特徴を持っていることが述べられています。


Ⅱ Analysis


法的責任について、主に著作権の寄与的侵害(Contributory Copyright Infringement )と代位侵害(Vicarious Copyright Infringement )の2点から検討していきます。


A. Contributory Copyright Infringement (著作権の寄与的侵害)
 
裁判所は、まず要件として以下の3要件を挙げます。

1 直接侵害者による著作権侵害

2 被告に侵害についての”知識(Knowledge)”があること

3 被告に侵害への”重要な寄与(material contribution)”があること


そして、2と3の要件につき個別に検討していきます。

「知識」要件についてですが、判例ソニー・ベータマックス訴訟(注1)を引用し、そこで定立された基準を当該「知識」要件に適用するために解釈した判例として、ナップスター訴訟第1審判決(注2)を挙げます。

そして「実質的にあるいは商業的に重大な、侵害にあたらない使用(substantial or commercially significant noninfringing uses)が可能か」というメルクマールを掲げ、不可能であれば、原告は被告が侵害に関する構造上の知識(constructive knowledge of the infringement)を持っていたことのみ立証すればよく、可能であれば「特定のファイル侵害に関する合理的知識」がありかつ「侵害を防ぐためにその知識に基づいて行動するのを怠った」ことを立証した場合のみ、ソフトウェアの配布者は法的責任を負うとします。

そして、判例P2Pで音楽会社から買い戻したアルバムを流したことによりレコード会社と再契約することができたWilicoというバンドの話、Prelinger Archiveによってリリースされた歴史的なパブリックドメイン映画やProject Gutenbergを通じて利用可能になったパブリックドメインの文学作品が当該ソフトウェアを通じて共有されている例を挙げ、「実質的にあるいは商業的に重大な、侵害にあたらない使用」が可能であり、ソニー・ベータマックス訴訟の法理が適用可能であるとします。

そして、「特定のファイル侵害に関する合理的知識」があり、かつ、「侵害を防ぐためにその知識に基づいて行動するのを怠った」という要件につき、被告が防止措置を講ずることができるようになる前にユーザーが侵害行為に到達していたことを理由に、本件被告は要件を満たさないとします。

そして「重大な寄与」要件については、「被告が侵害のための“場所と設備(site and facilities)”を提供しているか」という点に着目します。そしてStreamCast社がユーザーのソフトウェアが定期的にパラメータを受け取るXMLファイルを保持しており、またGroksterが採用しているFastTrackテクノロジの所有者であるSharman氏が現在アクティブになっているスーパーノードのリストを含むルートノードを保持していることについて、被告によってホストされているわけではないし、侵害を容易にしているわけでもないので、「付随的な寄与」にとどまるとしてこの要件を満たさないとします(注3)

さらに、被告のソフトウェアが次世代のナップスターの座を狙っていたとしても、それがナップスター訴訟の判決を潜脱する目的で作られたのではなく多数の使用法があること、著作権の寄与的侵害には損害から生じた経済的利益の立証を不要としていることとのバランスの関係上、当該責任の拡張を拒否するとしました。



B. Vicarious Copyright Infringement

次に、著作権の代位侵害についての話に移ります。

判例は代位侵害の要件として、ナップスター1審判決(注2)を引用し以下の3要件を掲げます。


1 著作権直接侵害

2 被告に直接的な財産上の利益が生じたこと

3 被告に侵害者の監視のための権利と能力(the right and ability to supervise the infringers)があること



判例は、3の”監視のための権利と能力”を判定するときに考慮すべき事項として、以下のものを挙げます。


(1)直接侵害者との間の公式のライセンスに関する合意の有無(注4)

(2)いかなる理由においても侵害者が特定の環境にアクセスするのを阻止する能力(注5)


そして、本件については、StreamCastのMorpheusをダウンロードした人間との間にライセンスによる合意を保持していない((1)について)、Groksrerは名目上アクセスを打ち切る権利を有しているが特定の認証やログインのプロセスを欠くため、アクセス制御能力を持たない((2)について)として、被告と直接侵害者は監視及び監督の関係を否定しました。

その後著作権者の主張に触れ、他人のコンピュータ上のソフトウェアやファイルを改変する義務は、自身のコンピュータ上のそれとは種類において異なっており、代位責任があるか否かを決定する事とは関連性が薄いと述べます(注6)。


C. Turning a "Blind Eye" to Infringement


この項目では、著作権者の“利益のために、検知できる侵害行為について見て見ぬフリ(”turning a blind eye”)をすることは法的責任を生じさせる” という主張(注7)(どうやら、独自の法的責任類型を提唱する主張のようです)について、法的責任に関する伝統的要素と無関係に存在する代位責任の要素など存在せず、この理論は著作権の寄与的侵害に関する著作権者の主張に包含されるとして退けました。


 

この部分は、法律の解釈というより、裁判所の当該紛争に関する立場を表している箇所です。

まず判例は、判決の射程について、地裁判決の時点での特定のソフトウェアの使用に限定されるとします。

次いで著作権者の主張全般に対して、以下のような否定的な見解を示します。

著作権者は自らが適切な公共政策であると信じたという点からその法律の再検討、著作権の寄与侵害と代位侵害の法理の適用範囲の飛躍的な拡大を主張する。そのような主張は法的拘束力のある前例の再解釈紛争であるばかりでなく、賢いとはいえないであろう。疑いなく、そのステップを採用する事は著作権者の即時の経済的意図を満足させるだろう。しかし、それはまた現在の文脈の外側にある、未知で最終的な影響をもたらす難解な方法で、一般の著作権法を改変する事になる。

さらに、著作権と技術の進歩について、以下のような慎重な態度を示します。

新しい技術の導入は、常に古い市場にとっては破壊的であり、特に既に確立された頒布機構を通じてその成果物が販売される著作権者にとっては破壊的である。しかし、歴史は時代や市場がしばしば複数の利益のバランスをとる際に均衡を与えるよう強制することがあることを示している・・・この結果、明白な現在の重要性にもかかわらず、特定の市場の力の濫用を位置づける目的で、法的責任理論を再構築する前に裁判所が警告を発することは自重する。

そして最後に立法との関係について、ソニー・ベータマックス訴訟を引用して(注8)、

憲法が自由放任の態度を取っているときには、議会がどれだけ先に行くことを選択するかについての合図は議会からのみくる可能性があるのである。

と結び、地裁判決を支持し、残された問題について地裁に差戻しを命じたのでした。





(注1)Sony Corp. of America v. Universal City Studios, Inc., 464 U.S. 417, 78 L. Ed. 2d 574, 104 S. Ct. 774 (1984)

(注2)A&M Records v. Napster, 239 F.3d 1004(9th Cir. 2001)

(注3)当該箇所で「重大な寄与」があったとして引用されている判例
A&M Records v. Napster, 239 F.3d 1004, 1022 (9th Cir. 2001)

Religious Tech. Ctr. v. Netcom On-Line Communication Servs., 907 F. Supp. 1361, 1372 (N.D. Cal. 1995)

Fonovisa, Inc. v. Cherry Auction, Inc., 76 F.3d 259, 261, 264 (9th Cir. 1996)

(注4)

Napster I, 239 F.3d at 1023

Cherry Auction, 76 F.3d at 261

Shapiro, Bernstein & Co. v. H.L. Green Co., 316 F.2d 304, 306 (2d Cir. 1963)

(注5) Napster I,239 F.3d at 1023

(注6)

Grokster I, 259 F. Supp. 2d at 1045

Napster I, 239 F.3d at 1024

(注7)Napster I, 239 F.3d at 1023

(注8)Sony Corp. of America v. Universal City Studios, Inc., 464 U.S. 417,at 456