判例についてのコメント

前回書いたのですが、判例文に関する補足を少し。

判決の論理上から行けば、今回責任が否定される根拠となった事実は、P2Pファイル共有ならではの成功例を提出することができたこと、被告のソフトウェアが中央サーバを介さないタイプで、かつ被告がライセンスやアクセス制御のための仕組みを組み込んでいなかったこと、ということになります。

このうち後の二つについては、実際に責任の有無を判断する際に考慮されたのかは疑問なところがあります。もしそうだとすると、ライセンス等をいい加減にして、とにかく自分が止められない作りにしておけば責任を免れられる、という妙な話になりかねませんから。
これらに関する判断は「責任なし」という結論から後付されたレトリック的なものといえるでしょう。

これに対し、「成功例の提示ができるか」という点は、責任判断(特に立証の程度の基準の決定)の上で実質的にもある程度意味を有しているといえます。しかしいうまでもなく、結論に至る最も根拠となっているのはⅢの部分です。前に述べた、『コモン・センス』に基づく裁判所の法文外の裁量的判断がなされているのはここであるといえましょう。「確かに、新しい技術は著作権に破壊的な影響をもたらすかもしれないが、だからといってどのような結果が生じるか分からない段階で著作権の拡大を認めることは『常識的におかしい』」というわけです。

これに対し、日本のシステムは「利益衡量」を基にしていますから「成功例の提示ができるか」という点はアメリカ法よりも俄然重要になってきます。被告の側が保護すべき「利益」を積極的にアピールしておかないと、「著作権」という錦の御旗をかざしている原告に勝つのはまず不可能でしょう。

従って、戦略論としては、Winny等で独自の成功例を積み上げておく必要が生じるわけですが・・・。現状のWinny等ではどれだけそうした組織的努力がなされているんでしょうか?